JICA国際協力レポーターエチオピア視察前インタビュー CEHPコーディネーター:白鳥くるみ 2014/8 Q1「有志が集い」活動が開始された、とあるが「集まる」ところから組織化するまでには「リーダー」の存在が必要だったか? 国際協力には、さまざまなステークホルダー(関係者)が必要と考えています。「CEHP:エチオピアン・ハンドメイド・プロダクツ委員会」は、かっちりとした上下関係のある組織ではなく、「エチオピアのハンドメイド製品の向上を通じて生産者の所得を向上させたいと願う/目的を持つ」個人や団体がつくるフラットなネットワークです。設立当初からNGO、随伴家族、協力隊員、JICA専門家・スタッフ、起業を目指す人、関心を持つエチオピア人などが、自由に参加しています。運営面、資金面で、長期的に関わる存在が必要なため、設立メンバーである「アフリカ理解プロジェクト」が、2010年からCEHPコーディネーターを務めています。自発的な活動ですが、継続させプロジェクトとしての成果をあげるためには、リーダー的な役割を果たす存在は必要でした。 Q2 エチオピア独自のハンドメイド製品として今後どのようなものを考えているか? CEHPメンバーは、CEHPでの経験や情報を交換したり共有したりすることで、売れ筋商品や市場、ネットワークをつくっていきます。これまでの国際協力では、情報や経験は広く共有されず、同じ失敗を繰り返すことで、資金や税金、時間の無駄も多くありました。CEHPは、団体や機関の枠を超えて情報や経験を共有、学んでいくため無駄がありません。また、生産者の自立支援を目的にしていることから、売れ筋商品の開発や市場・ネットワークづくりは、生産者自身が行えるように「生産者の能力を向上させること」に重点を置いてきました。今後のハンドメイド製品の開発は、彼女たち自身が考えていくこと、またその技術も能力も磨かれて来ていると思います。但しフェードアウト後も、要請があれば必要な支援は継続していきます。 Q3 NGOであることは必要条件なのか、十分条件なのか? エチオピアでNGOとして活動する場合、公的なNGOであることは必要条件です(NGO条例)。但し、政府登録NGOの手続きは複雑で、大きな資金や時間が掛かります。CEHPは、必要があれば、政府登録NGOあるいは団体として登録することは出来ますが、パイロットプロジェクト(試験的な活動)では、まずやってみるということが大事です。誰がやるかではなく、何をやるかが重要だと考えています。 Q4 エチオピア以外での活動歴はありますか。もしある場合、エチオピアと他のアフリカ諸国を比べて、どんな違いがあると思いますか? 私個人の活動歴としては、エチオピア(9年)以外では、ケニア(3年)、タンザニア(8年)、英国(4年)、スリランカ(3年)、インドネシアなどがあります。エチオピアはアフリカで唯一独立を保った国で、ほかの国が植民地支配で失ってしまった技術、ユニークなアートや手工芸品がまだ残っています。一方、生産者が、他者目線でみることに乏しいため、商品としての魅力は今一つ。商品として成立させるための技術力やデザイン性の強化が求められています。 Q5 将来の展望.「支援される側」が支援に依存していませんか。将来独立できるような支援をされていますか。工夫されていることがありましたら教えてください。 質問2の通りです。CEHPの生産者との関わり方は、最初から、見守り(生産者の必要に応じて、商品開発や技術指導などはします)、助言をするだけ。「支援は、半歩うしろから見守り、時に応じて半歩前を考えて助言する」を実行しています。 Q6 プロジェクトの効果と課題 CEHPパートナーになることによって、実際に現地の人々はどれほど所得が向上したのでしょうか? 現在、CEHPのパートナー団体は、9つあります。この中のほとんどが企業からの注文が増えています。HIV陽性者の女性生産者は自分たちでビジネスを始めるまでになりました。しかしながら、CEHPの目的を理解せず、商品の改善や進歩が見られないのに、価格のつり上げや、販売先だけを求める生産者グループもいます。そのような場合は、パートナー団体としての支援を取りやめます。1団体そのような事例がありました。 Q7 現在、活動の中心は有志によるものだそうですが、持続可能性を持たせるためにどのような取り組みをされていますか? CEHPの活動はプロジェクトですから、目的が達成できればフェードアウトします。2010年から2015年3月までの5年間のプロジェクトが、持続可能だったのは、質問1の回答にもありますが、明確な目的意識を持ったメンバーと、柔軟な体制、資金を掛けずにできる智慧と工夫、何でもすぐにやってみるという実行力があったからだと思います。 Q8 社会的・経済的に立場の弱い方々には女性・子供・老人・病人・介護者などがいらっしゃるかと思いますが、実際に活動されていて支援が行き届いていると思われるでしょうか?そうでない場合、どのような状況・立場の方への支援が足りないとお感じになっているでしょうか? 近年は希望の大陸で語られることが増えたアフリカ大陸ですが、まだまだ社会的・経済的な立場の弱い人たちが多いと感じられたのが、西アフリカでアウトブレイクしているエボラ出血熱での社会の混乱です。このような病気が一旦流行すれば、身体的・経済的弱者はひとたまりもありませんし、迷信や盲信がさらに流行を広げます。貧困はつまるところ、疾病の拡散、戦争や内紛、テロを招き、世界的な安全を脅かすことになります。 日本にも貧困はあるのに海外への開発支援は必要か、という声を日本国内においてよく聞きますが、日本の貧困とアフリカの貧困の質は異なります。いずれにしても貧困を放置したConsequence (結果)を負うのは、私たちということを、もっと多くのみなさんに理解していただきたいと思います。 Q9 苦労話について 支援の手を差し伸べることは被支援者および支援者双方にとって人生において価値ある行動だと思います。こうした行動が相互理解に繋がったエピソード等がありましたらお聞かせください。エチオピア人と日本人に似ているところ、まったく違うと感じるところを教えてくださると幸いです。違いがあるとしたらその原因は教育でしょうか、宗教観でしょうか、それとも歴史や天候からくる環境によるものでしょうか。 これは、メンバーひとりひとりに尋ねられるとよいですね。 Q10 女性のなかにも高学歴な若い世代が育っているとHPで知りました。一方で都市と地方での経済格差は広がっているとお聞きしています。立場の弱い方をもっと減らすためには、どうしたらよいとお感じになりますか? 「これをすれば、弱者が救える」という万能薬は、残念ながらないように思います。もしあれば、弱者はすでに存在しないはずです。仕事をつくり雇用を創出する、就学率や識字率をあげる、技術訓練をする、病院やクリニックを建てる、弱者への法整備を考えるなどなど、いろいろな支援がすでに行われていますが、貧困の原因は複合的で、一つの問題を解決しても別の問題が出てくるなど、その解決は容易ではありません。結局のところ私たちのような外部者が出来ることは限られており、現地の人たちが、当事者意識を持ち、自分たちの問題を解決していくことなしに、現状を変えていくことは出来ません。 Q11 女性の就労機会を与える事は,重要である。今後どのように発展させていくのか? ・観光産業が伸びているエチオピア国内市場、またアフリカの近隣諸国をターゲットにお土産物づくりの充実を図ることで、就労機会を増やしていきたい。 ・日本のニーズに沿った商品の提案。 ・アフリカ商品の広報(ストーリー本の制作やセミナーワークショップの開催など:※現在アフリカ料理の本とアート&クラフトの本の制作を行っている)で、日本や世界市場にアピールしたい。  ※2015年『アフリカ料理の本』は出版されました。 Q12 生産者の所得を向上させるという目的には、具体的な数値目標はございますか? "物を作ることから,生産の場の拡大・販路の拡大をどのようにするのか?物を作ることだけでいいのか。社会の仕組みを変えることはできたのか?" CEHPパートナーは、すでにエチオピアの中堅として認知されている企業から、NGOの活動資金目的で行われているプロジェクト、HIV陽性者のグループまで多様です。 支援の方法は、それぞれのパートナーで異なっており、 (1)ムヤ、サバハール、WAR、サレムズ、JICA森林コーヒー →日本市場への紹介、JETROアフリカンフェア展示、日本のデパートなどでの販売、日本企業との直接取引開始など (2) タスファエ、ベツレヘム、カチャネ、薪運び女性グループ →新商品の提案、デザインなどを提供で注文が増加。企業取引が開始された団体もある。 (3)エチオピアの未来の子供、アジアとアフリカをつなぐ会、笹川アフリカ協会 →広報協力で認知度があがり、問い合わせが来た。 (4)メリーズ →組織化、スキルの提供、市場開拓、新商品の提案などで、所得ゼロから500ブル以上の収入が得られるようになった(月35時間程度の就労)。 目標や評価は、数値目標ではなくポートフォリオ評価を用います。ポートフォリオ評価では、パートナーが自発的に学び、その伸びや変化を観察・評価し、新たな学びにつなげているかどうかを見ます。 Q13 異国でこのような尊い活動をされている理由は、社会貢献以外にはどのようなことが有りますか? 私自身の出発点は、青年海外協力隊に参加させていただいたことです。3年間の経験は、その後の私の人生を豊かにする大きなきっかけになりました。税金を使わせていただいての経験ですから、日本の社会に還元することは当然のことだと思っています。 Q14 利益は?何人の人が救われたか? 予算はどこから来ているのか?費用対効果は低くないか? CEHPのしくみは、「生産者と販売者の直接取引への移行を支援」します。従って、CEHPが、販売者となり利益をあげることはありません。但し、活動のなかで活動費は必要になるので、紹介している商品に若干の上乗せ(0%〜30%まで)して、活動費をねん出しています。費用対効果を、予算額でみるとわずかな額(2012年度予算35万円規模)で、それぞれの生産者が大きなインパクト(質問12の回答)を出しています。注:CEHPワークショップの施設費や人件費などは、私個人の負担で行い、会計に計上していません。収支報告、議事録などで、活動の透明性を確保しています。また売り上げの中から4年間わたり、約40万円を東日本大震災復興支援に寄付しています。 Q15 便利な日本社会での生活と比べ、今エチオピアに来て考える「幸せ」への考え方や価値観とはそれぞれの社会において社会的弱者は存在する。エチオピアの社会的弱者にとっての「幸せ」とは? "今後の発展の方向性。加工品制作によって人々の生活はどう変わったのか?" これは、メンバーひとりひとりに尋ねられるとよいですね。 私は、弱者が幸せを感じられるのは、当たり前の権利(人権)が受けられること、自分自身に自信と誇り(自尊心やエンパワメント)が持てるようになること、ではないかと思っています。加工品製品をつくり販売することは、単なるモノづくりやお金稼ぎに留まらず、自分たちの権利を知り、自尊の気持ちを育てていく過程となるよう、配慮されなければならないと思います。