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(2010年3月)

今回の「私×アフリカ」では、『装いの行為におけるコミュニケーション』を追求しながら、世界各地で多くの方々を巻き込んでの美術作品制作やワークショップの開催、執筆など多岐にわたる活動をされている現代美術家・西尾美也さんにインタビューをしました。

   


--西尾さんはケニアのナイロビを舞台に美術作品を制作されたということですが、どのような作品だったのでしょうか。また、何故作品の舞台にナイロビを選ばれたのでしょうか。

ナイロビでは2つのアートプロジェクトを実施しました。1つは09年に行った《Self Select in Nairobi》で、見ず知らずの通行人と衣類を交換してもらうというもの。もう1つは今年の1月に行った《Overall Project in Nairobi》で、これは地域住民から古着を集め、それをバラバラに解体したあとパッチワークによってその土地に由来する別のものに作り変えるというもの。今回はナイロビの人や貨物を運ぶ《汽車》を作り、最後は皆でその中に入って本物の線路の上を実際に行進しました。


<Overall>

どちらのプロジェクトも様々な国で開催しているものですが、今回ナイロビを選んだそもそものきっかけは2008年のプライベート旅行でした。人、風景、文化などあらゆる点での日本との違いにとにかく圧倒されましたね。日本では、ギャラリーや美術館、学校やその周辺の人たちに囲まれて生活していますが、そういったアートインフラがほとんどない場所で自分に何かできるのか挑戦したいという思いと、アートがどう機能するのか、どのように受け入れられるのか見てみたいという気持ちから、ナイロビでプロジェクトをはじめることにしました。


--どちらも衣服を使っていること、一般の方が参加しているというのが共通点ですね。なぜこのようなプロジェクトをしようと思われたのですか。

どちらのプロジェクトもテーマは「オルタナティブな(編注:もう一つの/既存のもとのは異なる新たな)コミュニケーション」を追求することでした。現地の人や向こうに住んでいる外国人は僕よりその土地に詳しいしお互いのコミュニケーションもスムーズです。でも、よそ者である自分がこのプロジェクトをおこすことで、現地の人対自分、そして現地の人対現地の人のコミュニケーションに新しい何かが生まれればおもしろいと思いました。実際何が変わったか? 言葉にするのは難しいですね…一人ひとりに逐一確認したわけじゃないし。ただ、確実に彼らのコミュニケーションに変化はあったと感じています。ナイロビで2つプロジェクトを実施しましたが、2回ともある種の達成感がありました。日本で開催するより変化が目に見えやすいというのはあるかもしれません。




--コミュニケーションの媒体として衣服を使われているのはなぜですか。

洋服は誰かに会ったときに最初に目に触れるもののひとつ。ただ身を包み保護するためのものではなく、自分の思想を伝えるという役割があると思います。個人の思想の根っこの部分に関わるものでありながらありながら公共性も高い。そこにおもしろさを感じています。



--確かに衣服にはその両面がありますね。向こうでは宗教や民族、身分階級などの社会的属性による要素が日本より大きそうですが。

そうですね。Overall projectでも古着を使いましたが、Self Selectでは通りすがりの人と衣服を交換してもらうというコンセプトの行為です。宗教的なコスチュームを着ている人からはまずOKしてもらえないなど難しい部分もありました。「プロジェクトには共感できるけどこの服はマズイから、一度帰宅して着替えてからまた来てもいいか」「いや、できれば今その服でお願いしたいんだけど」「それは駄目だ」みたいな押し問答があったり(笑)


<Self Select>

--プロジェクトにはどういった方が参加されたのですか。

今年のプロジェクトではナイロビの一般市民の方々、約100名の方々が参加くれました。事前の告知や人集めの働きかけなどはしなかったのですが「外国人がやってきておもしろそうな事をやっているな」と覗きに来て、いつの間にか人が集まっていました。アートに関心あった人なんていなかったんじゃないかな。アートが何かも知らないような人の方が多かったかもしれません。初めの内はお金を要求する人や食事をおごってくれと言ってくる人もいましたが、やっていくうちにおもしろがってくれて、ほとんどの人が見返りはないとわかってからも手伝い続けてくれました。
この作品は《見る》だけのものではなく《体験》してもらうということも重要なポイントだったので、制作が終わったあと作ったパッチワークの汽車の中に皆で入ったのですが、盛り上がりましたね。
あの好奇心はすごかった。大人も子供も関係なくて。彼らのそういうところにものすごくエネルギーを感じたし、可能性を感じました。自分にとってアフリカの魅力は、人々のあの好奇心とエネルギーですね。




--今回孤児たちとのワークショップも開催されていますね。

Overall Projectの1dayバージョンを孤児たちの施設で行いました。このような施設でのワークショップというと、通常は支援を目的としていることが多いと思いますが、私は何かを施すために行ったわけでも教えるために行ったわけでもありません。他のOverall Projectと同様オルタナティブなコミュニケーションを模索することが目的でしたので、むしろいかに子供たちと《対等に》向き合えるかということを考えていました。ただ、結果的にこのプロジェクトを通じて彼らの心の中に、経済的なものとはまた別の豊かさとか好奇心の芽のようなものを与えられたとしたらうれしいとは思います。



--今後アフリカや他の国で展開のご予定はありますか。

今回活動拠点として「西尾工作所ナイロビ支部」を設置しました。ナイロビではひき続き活動したいと思っています。今回は一般の方々とのコミュニケーションを重視したため、現地アーティストとの交流はほとんどなかったのですが、次回は彼らの話も聞いてみたいですね。どんな思いでどんな作品を作っているのか興味があります。また、同じアフリカでも国によって文化も違うでしょうし、ゆくゆくはアフリカ全土で開催できたらおもしろいかもしれませんね。
私は旅行が好きなのですが、ただ観光するということはもうないでしょう。Self SelectやOverallのようなプロジェクトを絡めるなどオルタナティブな生き方、コミュニケーションについて考えながら、今後も様々な国を訪れたいと思っています。
 
ファッションをモチーフにしていることや、多くの方と関わりながら制作をするスタイルなどから、お会いする前は、勝手に華やかな業界っぽい(!?)方を想像していたのですが、実際はとても知的で穏やかな、優しい雰囲気を持った方でした(想像力が貧困ですみませんでした…)。コミュニケーションを追求されているというだけあって、一言ひとことを慎重に、言葉を選びながらお話されていたのも印象的でした。
旅がお好きという西尾さん。今後は他のアフリカ諸国でも活動を展開される可能性もあるとのことで、楽しみにしています。
どうもありがとうございました。


インタビュアー:鮫島弘子(文)、山田真理子

プロフィール:
西尾美也/にしおよしなり
現代美術家・西尾工作所代表
1982年 奈良県生まれ。
2010年 東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程在籍中。
東京在住

装いの行為とコミュニケーションの関係性に着目し、市民や学生との協働によるプロジェクトを国内外で展開している。代表的なプロジェクトに、世界のさまざまな都市で見ず知らずの通行人と衣服を交換する《Self Select》や、数十年前の家族写真を同じ場所、装い、メンバーで再現制作する《家族の制服》、世界各地の巨大な喪失物を古着のパッチワークで再建する 《Overall》などがある。また、2009年に西尾工作所ナイロビ支部を設け、アフリカでのオルタナティブなアートプロジェクトに着手している。
(西尾美也さんホームページより:http://yoshinarinishio.net/)
 


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