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「グランドエルグオリエンタル」

(2009年10月日)

“風書”を知っていますか。知らない人も多いでしょう。なぜなら風書とは、今回インタビューをした月風かおりさんが創り出した芸術だからです。風書は、書道と同じく筆、紙、墨を使いますが、書道のように正しい文字の形や決まったルールがあるわけではなく「旅をベースに風のように肌で感じたことをありのままに自由に表現する」芸術なのです。

月風さんは2004年暮れから約3ヵ月間、アフリカのサハラ砂漠をバイクで往復縦断しながら、アフリカを題材に30点ほどの風書作品を完成させました。縦断距離はなんと18,000km。インタビューでは、風書という芸術について、アフリカ・サハラ砂漠縦断についてじっくりお話をお聞きしました。



書道という枠を超えて 風書にたどりつく


もともと書道家であった月風さんは、書道を極めていくなかである葛藤を抱きます。「自分の感じることをもっと自由に表現したい」ということです。中国の古文や日本の詩などを「文字」という決まったもので表現するのではなく、“自分の感じること”を“自由に、ありのままに”表現したいと思った月風さんは2002年、思い切って旅に出ることを決断します。筆と紙を持ってバイクで北米大陸、5,500km。それがその後の月風さんの風書のスタイルの出発点となります。

「旅では余計なものは何も持たず、食べ物がなくなっても墨と紙だけはずっと持っていました。ひたすらバイクで走り、目的地を目指す。地球と対話しながら無力な自分をその環境に置いたときに何を感じることができるかを知りたかったんです」

旅をしながら、感じたこと、思ったことをありのままに自由に墨で描く。そうすることで自分らしいアートが表現できると感じた月風さんは、その後2003年にはアラスカ半島横断、2004年〜2005年にアフリカのサハラ砂漠往復縦断、2006年に英国、2007年にネパールでヒマラヤ探訪、そして2009年にはチベット横断をします。これまでの月風さんの旅の移動手段は全てバイク。

「バイクは一番、風を感じやすいんです。その土地の気候風土を体感し、現地の人と同じ空気を吸い、同じ風を感じることができる。そしてその土地の人々が持つエネルギーをもらうことができる気がします」

何より私たちを驚かせたのは、月風さんのイメージとのギャップ。バイクにまたがって何千キロも旅をする風書家と聞いて抱いていた女性像とは大きくかけはなれていました。やさしくおっとりとした口調、華奢な身体。「もしかして、バイクにまたがると別人に変身しちゃうの?!」と胸の内に思いながら、インタビューをしました。

月風さんは昔から絵を書くことが好きで、小さい時から家から離れた場所へ一人で自転車に乗って行くことが好きな少女だったそうです。今から思うと小さい頃から予兆があったと笑って話してくれました。

「バイクで旅をし、その土地で生きる人々に会うことで、地球の壮大な自然と、そこでがむしゃらに生きている人たちからエネルギーをもらっていることに気づいたんです」


「ホガール」

アフリカ・サハラ砂漠横断を決める

月風さんが中学生のとき、美術の先生が月風さんの作品をみて「あなたは美術の道に進むといい」と言ったそうです。その時の作品が、黒人の顔をアップにした彫刻作品でした。

「私がまだ幼い時、1970年の大阪万博でエチオピア館に行ったんです。中に入ると入口の横に槍を持った人形がありました。その横を通りすぎようとした瞬間、その人形が動いたんです。人形ではなく人だったんですね。あまりにびっくりして大泣きをしました。そこからアフリカ人に対する衝撃がずっと残っていて、中学の時の作品でアフリカ人の顔を掘ろうと思い立ったんです。その後その作品が入賞。それがきっかけで昔から遠いアフリカに対して何か縁を感じていました。だからいつか未知のアフリカを旅したいと 当然のことのように考えていました」。 

 
左:「真実」
右:「生の証明」


アフリカ横断で出会った人、思い出


「アフリカの旅はどうでした?」という質問に、「とにかくめちゃくちゃでした!」と笑う月風さん。旅でのハプニングはもちろんのこと、人々の生活や価値観に驚かされることが多かったそうです。貧しい環境にいながらも人々から溢れる生命力。人々の明るさ。笑顔。“ダイナミックなアフリカ”を目にした月風さんは色々な意味で衝撃を受けたそうです。

ガーナで出会った女の子に「何の食べ物が好き?」と月風さんは聞きました。「そんなこと、いままで一度も考えたことがない」とその少女は答えました。選択肢が当たり前のようにあり、日々の選択に悩みもがく私たち日本人に対し、何の選択肢もない生活で必死に生きているその少女にショックを受けました。自分が少女に聞いた質問を恥ずかしく思う一方で、そんな状況の中で明るくたくましく生きる少女から、なぜか自分がエネルギーと元気を受け取っている、と月風さんは感じました。

私は走りながら考えていた。夢中で走ってきたサハラ、そして砂漠を越えて出会った迫力のある異文化、熱い人々。最初は戸惑いながらも、彼らと同じ条件で灼熱を浴び、砂まみれになって生活を見てきた。そこには個々の歴史を背負いながら過酷な自然環境の中で、その日を精一杯生きる人たちがいた。
私は西アフリカで何に心動いたのか、そんな質問を自分自身にぶつけてみる。それはやはり彼らの圧倒的な“生きる”という表現力だった。したたかでもなく、きらびやかな生活を望むことなく、ただひたすらに生きることへの熱い挑戦。すべてがアフリカという時間の中で、生々しく、そして美しく凝縮されていた。

(『アフリカ・サハラ砂漠横断中の日記』より(月風さんホームページのブログ掲載))


 
左:「天と地と私」
右:「友情」

アフリカで感じたこと

アフリカの芸術は、西洋の遠近法や陰影法を使った写実的な美術、いわば“美を追求する芸術”とは異なり、称賛の美を追求していないところに魅力を感じる、と月風さん。
「アフリカの造形物、美術品は土着で生活に根付いているものが多いです。そのせいか、生々しい人のパワーを感じます」

アフリカの芸術は「きれいに描く」「人に理解される」というところに縛られていたという月風さん自身の作品にも影響を与えた。
「自分の芸術スタイルに自信が持てずに迷いがあったんですが、アフリカの文化に触れて『これでいい!』と思えるようになりました。アフリカの人たちが自分を肯定してくれた気がします」。

インタビューでは終始、笑顔を絶やさず自然体でお話をしてくださった月風さん。風書で、自分の肌で感じた風をありのままにそして自由に表現している月風さんの芸術スタイルが人柄にも表れているようでした。

最後に、またアフリカに行きたいか、という質問をしました。「機会を見つけて、また必ず行きたいです。今度は東アフリカあたりかな。南アフリカへも行ってみたいです」と月風さん。月風さんの今後のアフリカ横断のお話と作品がとても楽しみです。

 インタビュー:白鳥清志・山田真理子(文)

*掲載されている作品は「アフリカの旅 知られざるもの・・・・未知」(2004〜2005サハラ砂漠 往復縦断バイクの旅)より

  プロフィール:月風かおり  

風書家。7歳より書の世界へ。20年以上、芸術書と実用書を駆使し毛筆演出に携わる。芸術書の独自の世界を探すため、2002年より感動創作を模索。自らの足で辺境を旅し、そこで体感する空気や万物を墨だけで表す「風書」のスタイルを確立。これまでに、サハラ砂漠のほかに北米大陸、アラスカ、イングランド、ヒマラヤ、チベットを探訪。作品は、世田谷美術館、目黒美術館、Brian Harkins Oriental Art (イギリス)、International Art Fair (ベルギー)などで展示されてきた。

風書家月風かおりオフィシャルウェブサイト
http://www.tsukikaze.com

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