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報告者:今井裕太さん(京都文教大学)
プロフィール:京都文教大学人間学部文化人類学科3回生 
京都文教大学の文化人類学科で、アフリカのタンザニアの土産物絵画「ティンガティンガ」ついて調査しています。


2009年9月18日から10月8日までの20日間、2回生のフィールドワークがタンザニアのダルエスサラーム、ザンジバル、モシ、キリマンジャロの山麓の村で行われました。このフィールドワークで赴いたザンジバルのストーン・タウンで、ティンガティンガの修業をする機会に恵まれ、これはその実践を通して調査した記録です。

1.ザンジバル2日目、ストーン・タウンを散策していると、たまたま通りかかった路地で、ティンガティンガを描く青年に出会いました。彼の絵にとても興味があり、習ってみたいと話しかけると、なんと!次の日から、その作業場で修業をさせてもらえることになりました。


2.
作業場には5−6人の画家がいて、その中のひとりMatolaさんが僕の師匠になってくれました。

3.ザンジバルでの滞在日数は短期間で、最初から最後まで描くことは難しく、売る予定のなかった下絵から描かせてもらうことになりました。午前中はスワヒリ語の授業があったので、授業が終わってから作業場に通い、3日間修業をしました。Matolaさんが傍につきっきりで、丁寧に順序良く描き方を教えてくれました。

4.ティンガティンガを描くときの特徴は、「ペンキが乾いたら、上から色を重ねること」「絵具(ペンキ)は、灯油で薄めて使うこと」などです。(注1「絵を描く工程」(注2「実践から得たもの」

5.Matolaさんとは、感性が近くて言葉を交わさなくても通じ合えるところがたくさんありました。



Muunnaの感想

ほんの数日間の修業でしたが、Matolaさんからは「Muunna」という名前までつけてもらい、ほかの画家のみなさんにも可愛がってもらいました。この一緒に絵を描いた仲間たちが日本に居る僕のために描き、知人に託してくれた一枚の絵は僕の宝物になっています。

ザンジバルでの修業後、ダルエスサラームのティンガティンガ村のIddi Issaさん(Matolaさんの師匠にあたる)を訪ねて行ったときは、「Matolaが、弟子が行くから良くしてやってくれ」と連絡があったと温かく迎えてくれました。Matolaさんとは、今でもメールでやり取りを続けています。

これからも、このつながりを大事にして、またみんなに会える日を楽しみにしています。

Tutaonana tena (また会いましょう)
Asante sana(ありがとう)

Muunna

 





注1【絵を描く工程】

 
(1)
実際のティンガティンガ制作がどのような工程で行なわれているか述べる。
ティンガティンガの題材には動物をはじめさまざまなものがある。ここでは、シマウマを例にあげて紹介する。一口にシマウマといってもいくつかの構図があるが、今回描いた「親子のシマウマ」は、特によく描かれる構図である。

(図1:親子のシマウマ。今回描いたもの。)



(2)
キャンバスを使ったティンガティンガでは、最初に、木枠に張ったキャンバスに「ランギ ヤ マジ(水の絵の具)」を塗る。「ランギ ヤ マジ」は、画家自らが水性ペンキ(白)と木工用ボンドを混ぜてつくる。下地にのみ使われ、配合は描く人の好みによるが経済状況によっても変化し、所持金が少なくなるとボンドの量を減らしたりする。これを表面に塗り、乾かすことによって、ペンキが割れにくくなるのだが、ボンドをケチると割れやすくなってしまう。

(図2:割れた絵。白い線が入っているのが割れたところ。)

(3)
「ランギ ヤ マジ」を2度塗り、その後表面をカミソリで削ってなめらかにする。「ランギ ヤ マジ」のかわりに「ウジ(注1)」を使う場合もある。特に、E.S.ティンガティンガやティンガティンガ村の画家のあいだでは、ウジがよく使われる。ウジを塗る場合は、最初にレッドオキサイドという茶色の金属用酸化防止剤が塗られる。これは酸化防止のためでなく、キャンパスを柔らかくするために使われる。

(図3:レッドオキサイドを使った絵の裏。)

本文で述べたように、制作工程の最初から経験することが難しかったので、(2)と(3)については、井上真悠子氏から提供していただいた情報をもとにしている。

(4)下地が乾いたら次は背景色を塗る。動物を単体で描く場合は、背景は一色のことが多い。その他の場合は、キャンバスの上で色を混ぜ重ねていき、グラデーションを出す。

(図4:背景のグラデーションの描き方。)

(5)
次に、シマウマの体と、背景にある木を黒に塗る。ペンキ画なので、乾いた上から色を重ねても大丈夫なのである。そのため、1番下の色を最初に塗っておく。どんな動物を描くときも、この基本は同じだ。

(図5:黒く塗りつぶす様子。)


(6)
次に、縞模様を白で塗っていく。目やたてがみ、しっぽなど細かいところは後回しにする。それから、縞の周りを黒色で縁取る。この時に、首の下、腹部分も灰色と黄色で縁取る。その次に、ひづめを灰色で塗る。ひづめの部分は、最初から空けてあるのでバランスがよくなるように想像しながら描く。

(図6:縞の周りの黒の縁取り。外側を黒い線で囲んでいる。)


(7)
次に、先ほど残しておいた目と耳を灰色で縁取る。それから、たてがみとしっぽを白色で描く。これもバランスを考えて行う。最後に、まつ毛などを描き、目を完成させる。その際、目は外側が灰色で内側が赤になる。そして、黒色で眼球を描く。ここまで描くとシマウマは出来上がりである。

(8)
ティンガティンガとして完成させるため、絵の周りを黒色と白色で縁取る。この時に、中の絵を大きく描きすぎたり、サインを外側に書いてしまったりすると、この縁取りで消えてしまう。この作業は、必ず最後に行い、画家たちの多くはこのスペースのことを考えて描かない。縁取りの太さは、画家によって異なるので、描く人によって中の絵に縁取りがかかったり、かからなかったりするのである。

(図7:線で消えてしまう。右:耳が消えている/左:サインが消えている。)


注2【実践から得たもの】

ティンガティンガ修業をした中で、画家たちのテクニックや道具から学んだことがいくつかある。まず、ティンガティンガを描くことで学んだ隠れたテクニックを4つ紹介する。

前に下地を塗るときは水彩ペンキを使うと述べたが、それ以外は油性ペンキを使う。しかし、油性ペンキをそのまま塗るのではなく、それに灯油を加え薄めたものを使う。それにより、筆が軽くなり描きやすくなる。「描いているうちに筆が重くなったら灯油を加え調整しながら描く」。これが、最初のテクニックである。そのため、作業場はいつも灯油のにおいがしている。

次のテクニックは、「色を重ねるときは十分に乾かしてから塗る」ということである。水彩画なら、乾く前に色を重ねることによって独特の風合いが出て素敵なのだが、ティンガティンガの場合は、背景を描く時のみ色を重ね、それ以外は下の色と混じって汚くなってしまうので重ねない。だから、太陽の下でしっかり乾かす。だが、ペンキはタンザニアの太陽の下でもしっかり乾かそうとするには時間がかかる。その間に、彼らは他の絵やマサイの絵を描く。

次のテクニックは、「塗りつぶす時に外側から内側へと塗る」ことである。これは、どの絵画でも共通して言えることかもしれない。例えば、シマウマを描くときも縞になるところをまず囲ってから、塗りつぶしていく。

(図8:塗りつぶす前に縞になるところを囲む。)
最後に、「小指を立てて描く」ということである。この場合の小指を立てるというのは、立てた小指をキャンバスにつけ、それを支点にして描くという意味である。これは、どんな絵を描くのにも共通することかもしれないが、こうすることによって乾いていないところに触れることもない。そして、なによりも手が安定する。これが、今回学んだことの中で一番重要だと思うことである。私自身、昔絵の勉強でデッサンを習った時に「小指を立てると安定する」と指導されたことがあり、今回の修業の中でも、Matolaさんからよく言われたことであるからだ。そして、何よりペンキで描くため乾いていないところに手が触れないようにするからだ。

絵を描く道具から学んだこともある。基本的なことだが、描く対象によって筆の太さを変えることもテクニックだと言える。木枠は、キャンバスに描く場合に必要になるもので、絵を描くのは布を木枠に張るところから始まる。絵が完成するとそのまま店頭に運ばれ、絵が売れると持ち運びやすいように売り子によって木枠は外され、また作業場へと戻される。


画家たちは空のペットボトルもうまく活用する。ペットボトルを半分に切ったものにペンキ缶から一定の量のペンキを直接入れてパレットとして使っている。同じように、灯油もペットボトルに入れて、必要な分をそこから出してペンキに加えていた。絵に使う道具はリサイクルして繰り返し使うというのが彼らの流儀のようだ。

(注1)トウモロコシを粉にしてスープ状にしたもの。本来は食べ物である。


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