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アフリカを教室に

ワークショップ

屋外での実験の様子

屋外で行ったセミナー開会式

外から立ち見が出るほど!

机間指導で生徒に問いかける

真剣に聞き入る生徒達

折り紙を使っての操作活動

同僚と準備を行う

  ■概要
エチオピアにおける学校教育は日本と似ていて、最終的な目標を高校、大学受験とした、暗記一辺倒の教育に主眼が置かれている。試験の結果が生徒達の将来を決めてしまうため、詰め込み的な教育方針も致し方ないと言える。

理数科科目は、自分で考えるということが非常に重要である。セミナーでは、自然現象や数学の定理などを身近な材料を使って実験演示することで、自然科学についての興味を深めてその素晴らしさを感得してもらい、自分で“考える”機会を多く取り入れた。これまで協力隊員が行ってきたサイエンスセミナーでは『実験』などを見せるだけで終わることが多く、非常にもったいないと思っていた。対象生徒は、中・高等教育段階なので、新たな試みの一つとして、もう一歩踏み込んで自然科学の“負”の部分もあえて取り上げ、“論理”や“科学技術”は万能ではない事、最終的にどのようにそれを活用するかは我々人間しだいであるということまで考えさせたいと思った。

特に今回は核技術を取り上げ、唯一の被爆国である日本から来ているという特徴を生かし、『ヒロシマ・ナガサキ』を題材とした。何事も素晴らしい部分だけを伝えるのは“嘘くさい”。現実社会とはもっと複雑である。しかし、その複雑な社会を私たちは生きていかなければならない。私たち大人はその部分も伝えることが責務であると思うし、その上で希望を持って「よりよい社会を創っていかなければ!」と思ってもらうことが大事だ。きっと生徒たちはそのように考えることができ、何か感じることがあると信じたい。

■セミナーのねらい
(1)各隊員の配属先において、生徒(教師も含めて)に理数科科目をより興味深く感じてもらえる実験演示(場合によっては体験してもらう)を行う。

(2)実験室にある器具は若干難しさを感じさせるので、できるだけ身近な材料を使用することで、抵抗感を減らす。

(3)驚きのあるような実験を選び、今までに授業で感じることのなかった“感動”をしてもらう。

(4)放射性物質について物理的・数学的視点から解析した後、実際それを用いた兵器がどのような惨禍を引き起こすのか知ってもらう。核の恐ろしさや自然科学の功罪を見極め、人類がよりよく生きるためにはどうあるべきかを考える。

(5)他隊員の任地で開催することで見えてくる、自分の学校とは違った良い点、悪い点を共有して、お互いの今後の活動に役立てる。

■内容報告
全体として,実験はおおかた成功し生徒の反応も良かった。(「ゴミ袋熱気球」は外で行ったが、風が強くあまりうまくいかなかった。場所を変える必要があった。)実験に終始するのではなく、簡潔に原理の説明も行うことで、見て・感じ・そして理解する、というサイクルが取られた。特に好評だったのは「水素の爆発実験」や「果物電池」だった。演示するパフォーマンスの巧さは必要だが、前に出て来てもらい生徒にも一緒に実験を手伝ってもらう。その場で感じることを“共有”するという実験がやはり新鮮で、生徒には一番である。

数学授業の「面積なぞなぞ」でも、生徒たちに折り紙を配布し、自分たちの手を使い、実際にハサミで切ったり・・・などの操作活動を入れ考えさせた。誰かが考えてくれるのではなく、自分で考えることが学習である。私達の目指すのは“ライブ”の感覚であり、“共有感”を持ちつつ“考える”ことである。これらの実験は今後のセミナーや通常授業でも取り入れていくと良いだろう。

続いて原爆プレゼンテーションセミナーを行った。“核”はGrade12の物理で最後に少し出てくるだけなので、難しい題材である。そこで、深く理解することを目的とせず、広く課題を理解してもらえるように簡潔にまとめた。また、言葉だけの説明ではわかりにくいので、できる限り写真や絵図を用いた。また、「そもそも、日本がどこか知っている?」などの会話も入れ、親近感を持ってもらえるように配慮した。ビデオ視聴やポスターの掲示は具体的な事実を視覚に訴え、セミナー後も印象に残り、事実をきちんと伝えられると考え取り入れた。

最後に現在の核の状況を伝え、その利点と欠点を対比させることで、我々人類は62年前の悲惨な事実を繰り返さないための行動をとらなければならない、とのメッセージを伝えた。ビデオの最中に、悲惨な映像が出てくると生徒は目を背ける場面も見受けられたが、終始真剣であった。思春期の生徒には、このような映像はショッキングであるが、感じた衝撃は決して忘れないであろう。生徒にも今回の原爆セミナーの意図は伝わったと思う。

以下に,原爆に関する生徒の感想の一部とセミナースケジュールを紹介する。
 ・たくさんの人が死ぬ場面を見て私は悲しくなった。
 ・原子爆弾を作った人を私は恨みます。
 ・各技術がとても危険だと思った
 ・原子爆弾の脅威に私たちはともに戦わなくてはならない
 ・世界中の人々が一緒になって核兵器の製造をやめさせなければならない。 ・原子爆弾はこの世から消えなければならない。
 ・核技術は良い目的にだけ使うべきだ。
 ・世の中を良くするために、私には大きなことはできないかもしれないが、例え小さなことでも実行していきたい。

【通常実験セミナー】 約2時間
  1. 「ゴミ袋熱気球」「PETボトルロケット」
  2. 「メビウスリング、その他」 
  3. 「粉塵爆発」 
  4. 「確率」 
  5. 「水素の爆発実験」 
  6. 「三平方の定理を使った面積なぞなぞ」
  7. 「浮力の公式を導く」 
  8. 「果物電池」 

【原爆プレゼンテーションセミナー】 約50分
  1. 「核・放射性物質とは何か?」核エネルギーはどうして得られるか、核分裂・核融合について、放射性物質と3種類の放射線,など
  2. 「核技術の利点(いい点)」X線,放射線治療、原子力発電所,放射線を使った物質の年代測定(半減期の説明を含める)、など
  3. 「核技術の欠点(問題点)」原子爆弾(ここで“ヒロシマ・ナガサキ”の説明をする)、ビデオ視聴、など
  4. 「これからの未来を考える」世界の核保有国と現在の核弾頭の数、私達ができることは何か、など
  5. 「まとめ」感想の記入・発表,ポスターの見学、など

■成果と課題
このセミナーで行ったような授業・実験を私たちが“素晴らしい”と思っても、私たちの日本人的な価値観をエチオピア人に押しつけることはできない。授業を通して彼らに何かを感じてもらえればいいのだと思う。「こういう学習は楽しい」と思えば、次回の開催へ向けて期待が高まるだろう。来なかった生徒にも、他の生徒から「何で来なかったんだよ、惜しいことしたなぁ。とっても楽しいセミナーだったのに!」と伝わるだろう。セミナー前後で生徒の表情は一変していたことが分かったし、ほとんどの生徒は感想の中で、今回のセミナーを高く評価しており、セミナーの継続を望む声が多かった。同僚教師からも賛辞が贈られて嬉しかったし、大きな成果を得たと思う。

もちろん、反省も多い。準備の段階で学校側と話し合いを重ねたにもかかわらず、当日まで実際に開催できるのか危うい部分もあった。休日開催なので生徒がどれほど集まるかなど、日本では“当たり前”のことがなかなか理解されず、やきもきさせられた。しかし最終的に、校長にセミナー参観をお願いし、最初の挨拶を頂いたこと、そして終わった段階で、今後のさらなる協力を約束してくれたことは良かった。最高責任者から理解を得られたことは大きい。

“地道に一歩一歩”だと思った。最初から素晴らしいものはないし、成功はあり得ない。それは一つずつ創っていくものだ。そして実際にエチオピアでのサイエンスセミナーは回数を重ねることで、理数科教師同士の連携も深まってきている。開催にあたって本当に苦労が絶えなかったが、やらなかったら何も残らない。今回の開催にあたり、多くの方々に協力を頂いた。調整員をはじめJICAエチオピア事務所の皆さん、事前に相談に乗っていただいた隊員の皆さん,JICA中国・広島平和記念資料館、広島市国際協力推進員の方に、この場を借りてお礼申し上げます。

(青年海外協力隊エチオピア理数科教師 冨永栄治)
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