一冊目
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ジャカランダに染まる街
九月も末になると、街のあちこちでジャカランダが咲き始める。まだ葉の出ないうちに薄紫の小さなベルのような花で全身をおおい、街の様子を一変させる。道端のキオスクの店先にも紫のベルが無数に降り、赤土の地面に色を添えている。 |
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おもちゃ売りのチェゲ:
チェゲが売り歩いているのは針金の自転車だ。柄を持って動かすと、人形がチャカチャカ自転車をこぐ。同じ仕組みで白いカモメが羽ばたくのを売っていたこともある。もちろん全部、チェゲの手作りだ。
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仕立屋
仕立屋、というより修理が専門。スケッチの途中、ヤーさん風の男がつばの取れかかった帽子を持ってきた。スケッチする僕に気づき、ギョッとしたヤーさん。仕立屋と早口のやり取り。それを聞いて子どもたちがケラケラ笑う。あー、僕もスワヒリ語の耳が欲しい。 |
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チョコラ・ボーイ:
ジョアシはナイロビ市内に15万人はいるといわれるストリートチルドレンのひとり。街の人は彼らを「チョコラ」と呼ぶ。かわいらしい響きだが、「ゴミ漁り」という意味だ。
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トビイの涙、そして笑顔:
右の子が豆売りのトビイ。スケッチの途中、豆の代金を仲間に横取りされ、泣きながら戻ってきた。でもそのあとすぐ、隣の子のズボンの股ぐらに大きな穴が空いているのを見つけ豆売りたちは大笑い。トビイもゲラゲラ笑い転げている。この立ち直りの早さ。僕は安心してスケッチを続けた。
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道端が僕の学校だ:
クリスは手製のちり取りを売り歩いている。道端で始めたばかりのジュア・カリ(露天職人)の卵だ。この道端にはクリスのような子どもが育っている。道端がクリスたちの学校だ。早く一人前になって何でも作れるようになれよ。
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ジュア・カリの街で:
フランシスは金物を手がけるジュア・カリ(露天職人)。ブリキ板から作れるものなら何でも作る。古レールにまたがり、たがね1本でブリキ板を切り込んでゆく姿は力強く美しい。街の子どもたちがジュア・カリに憧れる気持ちがよく分かる。
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マイナ:
マイナは歩くことも話すこともできない乞食。けれど、見つめて描いているうちに、別のマイナが見えてくる。優しく、たくましいもう一人のマイナ。いくつものマイナがいる。スケッチがそう教えてくれる。
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二冊目
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苦学生
学費かせぎに自分で作った家の模型を売る苦学生。スケッチの後、その模型買うよと金を渡した。学生は紙幣を一枚返し、「あなたは友だちですから」。多めに払ってあげたいくらいだが、その言葉を無駄にはしたくなかった。僕は紙幣を受け取り、暖かい言葉と一緒に赤い屋根の家を大切に持ち帰った。 |
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アナタヲ描イテ、イイデスカ?
覚えたてのスワヒリ語で声をかけた。「ミミニ ムチョラジ。ナウェザ クチョラ ウェウェ?」(私ハ絵描キデス。アナタヲ描イテ、イイデスカ?)。女はゲラゲラ笑いだし、早口のスワヒリ語を口走った。まずいと思いつつ僕は、ミミニ……を繰り返す。苦労の甲斐あって、女はスケッチを許してくれた。
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物静かな靴屋
この靴屋、スケッチの見物人でまわりは大騒ぎというのにニコリともせず黙々と仕事に打ち込んでいる。おしゃべりは嫌いらしい。いろいろ聞きたいこともあるのだけれど……。仕事の邪魔だと言われそうで僕も黙々と描いた。 |
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くず拾い:
大きな袋をかつぎ、ゴミ山を渡り歩く男。金になりそうな廃品を集めている。街はずれに段ボールとビニールシートでこさえた家があり、仲間と住んでいるという。多くはストリートチルドレンのなれの果てだ。
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車椅子の乞食:
遠くを見るような目で車椅子に座っている乞食。知的で物静かな男だ。事故か病気で歩けなくなる前は学校の先生でもしていたのではないか。時々、車で乗りつけたお金持ちから声がかかる。なにかに耐えているような苦渋の表情で金を受け取り、男がもどってくる。
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駐車場の押し売りたち:
高級ショッピングセンターの駐車場。車で乗りつける客を待ち受けるのは花や果物の押し売りたち。うんざりした顔で客が車に乗り込んでもまだあきらめない。しかし最後にはエンジンがかかり、世界が割れる。押し売りと車の客は再び遠い別々の世界に帰ってゆく。
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泥人形売り
この男の作る泥人形は皆、「道端の人たち」だ。焼きトウモロコシ売りとか靴磨き。ゴミ箱を漁る子どもや客を満載したバス。キリンやシマウマの人形ばかり欲しがる観光客の目を気にせず、自分の目でこの街に生きる人間を見ているところがうれしい。 |
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さよなら、グッドボーイ:
スケッチのタイトルを見たジュンゲがポツリと言った。「チョコラボーイじゃなくて、グッドボーイって書き直して・・・」。街の人がそう呼ぶのを真似していただけだ。でも、「チョコラ(ゴミ漁り)」なんて呼ばれて気分いいわけないよね。もっと早く気づいてあげればよかった。ごめんよ、ジュンゲ。そして、これでお別れだ。 |