セネガル: セネガルのごみ問題 ― ポイ捨てから廃棄物取引まで
船川夏子(ふなかわなつこ)
セネガル在住の会社員。学生時代にケニアなどアフリカの国々を訪れたことがきっかけで「日本にアフリカを知らせたい」と学生団体Tunapenda Africaのメンバーに加わり、学習会・イベントの企画に携わる。2007年フランスに留学、大学院で西アフリカの移民・開発問題を学ぶ。現在は商社の社員として「ビジネス」を通してアフリカと関わりながら、仏語圏西アフリカの情報発信につとめる。
ポイ捨て文化
セネガルの首都ダカール。道端に散乱するビニール袋やプラスティックのカップなど、ごみの多さに嫌気がさすことがしばしばある。清掃業者が毎朝ほうきできれいに道を掃いているにも関わらず、夕方にはまたごみが散乱している。それもこれも、みんなが「ポイ捨て」するからなのだ。飲み終わったらカップをポイッ、タバコの吸殻をポイッ、車の窓からもポイッ。ごみのポイ捨て文化は深刻なのだが、これらのごみの処理を見てみると、事態はもっと深刻だ。
1日1000トン以上
ダカール市のごみの量は年間で40.6万トン[1] 。つまりダカール市内だけで一日あたり、乗用車1000台分以上のごみが発生しているということになる。セネガルでは毎日1千万ものビニール袋が使われており、国内のごみの約4割がプラスティック素材に起因するものだという報告もある[2]
。
ごみ問題に関しては、政府も色々な対策を講じているようだが、どれも中途半端で効果をあげていないという。ごみの分別・リサイクルといった概念は、一般的に広く浸透しているとは言いがたく、そもそもプラスティックごみの量を減らすための対策―例えばビニール袋に課税する、使用を制限する―といった対策は一切とられていない
[3]。
ごみ処理インフラの欠如と環境汚染
プラスティックごみは自然分解されず、半永久的に残る。日本のような高温焼却処理施設もなく、リサイクル施設も整っていないので、プラスティックごみはそのままごみ集積場に廃棄され放置されるか、有害物質を発しながら燃やされるのが一般的で、環境汚染の要因となっている。
ダカール郊外のブブスごみ集積場には、毎日1300トンほどのごみが廃棄されており、周囲の環境汚染が問題視されている。堆積したごみから流れだした有害物質は土壌と地下水を汚染し、焼却されたごみの煙が空気を汚染する。周辺の病院では環境汚染が原因と見られる患者の例が後を絶たず、乳児の奇形も報告されているという[4]
。
ちなみに、この集積場では子供を含む1000人以上が「ごみの拾い屋」として働いている。リサイクルできそうなプラスティック、金属、ガラスなどのごみを集めて売り、一日あたり500円から1500円を稼ぐ。プラスティックごみ1Kgの値段は75CFAフラン(約12円)だという
[5]。
情報化とごみ問題
世界中で急速な情報化が進んでいる。発展途上国へ輸出される電子機器類の数は増加の一途をたどっており、西アフリカも例外ではない。携帯電話、パソコン、インターネット…。情報化はたくさんの恩恵をもたらす。しかし、これらの電子機器類が、やがては廃棄物になることを忘れてはならない。「近い将来、世界中に20億台ものパソコンが出回り、その半分以上がセネガルを含む発展途上国に流れるようになる」とある専門家は指摘する[6]
。
パソコンなどの電子機器類・冷蔵庫などの家電(電気機器類)廃棄物[7] には、水銀・鉛などの有害物質が含まれるため、特別な処理が必要だ。これらの廃棄物が一般ごみと一緒に捨てられたり放置されると、金属物質や有害物質が土壌と地下水に流れ出し、深刻な環境汚染の原因となる。
処理能力の欠如
しかし、多くの発展途上国には、これらの廃棄物を安全に処理する技術もインフラも整っていないことが多い。
その結果、使えなくなった家電や電子機器類は、「修理屋」や「拾い屋」によって引き取られ、無造作に解体される。彼らは使えそうな部品や金属を取り出し、残りは一般ごみと一緒に放置する。銅など高く売れる金属を取り出すためには、周りのプラスティックごと燃やしてしまう…などといった、環境にも人体にも危険な「処理」方法は珍しくない。
「中古品」「寄付」という名の有害廃棄物
そんな中で、電子機器類が流入し続けるとどういうことになるか…。無視できないのが、「中古品」や「寄付」という名目で入ってくる有害廃棄物の存在だ。
ダカール市のオフィス街に隣接するルブス(Reubeuss)地区。在セネガル日本大使館のすぐ裏手にある、貧しい下町といわれるこの地区には、使えなくなった冷蔵庫やパソコンの「修理屋」がたくさんある。先日、この地区を歩いているとき、港からついたばかりの一台のコンテナを見かけた。中には古めかしい中古のパソコンがどっさり詰まっている。おそらくどこか先進国から輸入されたものだろうが、どうみても、使えそうには見えない。「分解してパーツにして売る」のだそうだが、当の本人はその危険を知っているのかどうか…[8]
。
セネガルのお隣・マリでは、毎年輸入されているパソコン約130万台の半分以上が中古品だという [9]。中古パソコンの寿命は長くても2年以下。有害廃棄物となるパソコンの数は恐ろしい勢いで増え続けている。
1992年に発効したバーゼル条約 [10]では、有害廃棄物の輸出入を禁止している。しかし、実際にはごみ同然でも、中古品や寄付として申告されれば税関を通過してしまう[11]
。中古品は、輸出する側にとっては仕入れ値のほとんどかからない、お得なビジネスであり、安価な製品を求める買い手側からの需要も高い。
また、先進国の多くの人々や団体が「善意」から、まだ使える中古のパソコンを集めては発展途上国に送っている。その善意が深刻な環境汚染に貢献しているとは思いもよらずに…。
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[1] 公衆衛生・生活環境大臣によるコメント。これによるとプラスティックごみの割合は8%そこそこ。Agence de Presse Senegalaise
(APS). ≪ Senegal: Les dechets plastiques constituent "un peril environnemental",
selon Khady Mbow ≫. 25 Mars 2011. http://fr.allafrica.com/stories/201103250963.html
[2] 国連人間居住計画(UN-HABITAT)のセネガル担当者によるコメント。APS. ≪ SENEGAL : 10 millions de
sachets plastiques utilises chaque jour ≫. 05 Octobre 2010.
http://www.senpremiereligne.com/index.php?option=com_content&view=article&id=4913:senegal-
10-millions-de-sachets-plastiques-utilises-chaque-jour&catid=9:environnement
[3] DIAME, Ahmed. ≪ La vision reductrice de l’Etat ≫. 9 mai 2011.
http://www.lagazette.sn/spip.php?article2876
[4] GERARDZ Julien. ≪ Senegal : l'enfer du quotidien des trieurs de dechets
≫. Le 25 Mai 2011.
http://www.bioaddict.fr/article/senegal-l-enfer-du-quotidien-des-trieurs-de-dechets-a1669p1.html
[5] Idem.
[6] PressAfrik. ≪ Gestion des E-dechets : bientot une usine de recyclage
au Senegal ≫. 23 juillet 2009.
http://collectik.over-blog.com/article-34135934.html
[7] 電気電子機器廃棄物E-waste(Electronic waste)、WEEE (Waste Electrical and Electronic
Equipment)などと呼ばれる
[8] たとえば、機能しなくなったパソコンを解体すれば、少なくとも21の有害な化学物質が含まれているという。
TRAORE, Paule Kadja. ≪ Senegal: Gestions des dechets electroniques - L'Ong Enda Ecopole affiche son inquietude ≫. Walfadjiri. 24 Aout 2011. http://fr.allafrica.com/stories/201108240400.html
[9] RFI. ≪ Senegal : dechets electroniques et informatiques en Afrique
de l'Ouest ≫. 15 Juillet 2010.
http://www.rfi.fr/emission/20100715-senegal-dechets-electroniques-informatiques-afrique-ouest
[10] 国連環境計画UNEPによる国際条約。1989年に採択され、日本は1993年加盟。175カ国が加盟しているが、このうちアメリカ、アフガニスタン、ハイチが批准していないという。
[11] ガーナの例では、輸入される中古機器のうち、ほんの1割から2割しか正常に作動しないという。
ARRIBE, Bertrand. ≪ La reduction de la fracture numerique et ses effets ≫. 31.08.2010.
http://cooperation-concept.net/?p=3210
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